古典笛師 尾本玄翠氏と出会う

まえがき

1990年代、現在の社会を第三次産業が発展し、空気や天然水といった

値段が付かない、と考えられていたものすら商品として売られる

消費社会が成熟した「超資本主義」の段階に入り「マルクス経済学が

述べている資本主義は消費過剰になった時に、もう終わってしまって

マルクス経済学が通じない段階になってしまった」とした。

そして、日本の一般民衆は中流意識が91%をしめているが、

過去の流れから推測して99%になるのは遠くない。

そうなると国家社会に特別の要求はなくなり、

したがって関心も理想も切実にはいらなくなる。

そのとき今の資本主義は終わる。

いま先進国の本当の課題は、近代以降命脈を保ってきた民族国家を

いつどうやって死なせたらいいのか、ということだ」と吉本隆明は述べている。

地域の文化財保存継承事業

昨年のことである。町会のだんじりが祭礼中横転したことにより、

大修理が必要となったところから話は始まる。修理の際に

文化庁の地域の文化財保存継承事業というものがある事を知り

仕事の合間、1年かけてその事業に参画することになった。

そして方向性を市の教育委員会の文化室と打ち合わせしていくうちに

地域住民の中でもとりわけ若い世代が無関心である事を肌で感じ、

吉本隆明が1990年代に述べた「国家社会に特別な要求はなくなり、

関心も理想も切実にはいらなくなる」という言葉が脳裏をよぎる。

ココにきて的を得たような、日本の民族国家の終焉さえ感じる時代に

入ってきたのだろう。

というところで、文化庁が推進する地域の文化財の保存継承事業の

必要性を痛感し、その中で、自身が地域にある伝統的な芸能を

蘇らせようという流れを作ることは出来ないかと自問が湧き起こる。

そして温めていた夢、雅楽師※の修業を始めるコトとなった。

※雅楽

宮内庁式部職楽部に伝わる日本の伝統的音楽芸術。

(重要無形文化財、ユネスコの無形文化遺産)

世界最古の管弦楽(オーケストラ)である。

表現としては、「管絃」「舞楽」「歌謡」の三つの形態がある。

古典笛を製作 尾本玄翠氏

尾本玄翠氏に出会う

学生時代は吹奏楽部や軽音楽部で音楽を楽しみ、社会人に

なってからもギターやピアノを趣味にしていたという尾本氏。

雅楽との出合いは20年前、多賀大社の雅楽講座に参加したとき。

篳篥の荘厳な音色に魅せられたという同氏は

雅楽器(三管)作りの伝統技能を習得するために

京都の名門雅楽器師・六代目山田英明氏に弟子入り。

古典笛に図面はなく、笛を吹きながら竹の内径や穴の距離を確かめ

0.1㍉単位で調整していく。

篳篥(ヒチリキ)

篳篥(ヒチリキ)

漆を塗った竹の管で作られ、表側に7つ、裏側に2つの

孔(あな)を持つ縦笛である。

発音体にはダブルリードのような形状をした葦舌(した)を用いる。

尾本氏が作る篳篥は煤竹(すすたけ)とよばれる茅葺民家の囲炉裏で

200年ほど燻された材の女竹の節部を管端にし、管頭径が約19mmの

女竹を厳選し、巻きの上に黒漆、朱漆、透漆で仕上げている。

モノの価値は半端ではないことが伺える。

煤竹

近江・湖東地方に残る茅葺民家の本煤竹

特に女竹は、天井部分に敷かれる「縄で編んだみざら」

として使われており、150年以上経過したものは

肉厚の半分以上まで煤がしみ込んでいて

削り込んでも飴色の表面を保つといふ。

手仕事でしあげてゆく

竹表面の研磨には、竹の繊維を乱さないよう砥草など

古来の材料を使用する。巻物は山桜の樹皮(秋田産)を乾燥させ

表裏をきれいに磨き、樺巻き用に2厘程度の幅に引いて、

長く繋いで巻いていく。

出来上がった篳篥

出来上がった篳篥

出来上がった笛は同じように見えても個性があり全部違う。

「自然の素材を使うので全く同じものはできないからです。

だから飽きずに続けられるのでしょうね」と尾本氏。

笛を作る工程は30~40に及び、1本作るのに2~3カ月もかかり

作れるのは年間20本が限度である。

尾本玄翠氏 フォト・ ザコウブギョ

尾本玄翠氏 photographer:ザコウブギョー

尾本さんは努力を重ね、2年間で篳篥だけでなく

横笛の龍笛や能管の作り方も習得。

師匠から「笛を作るために生まれてきた人」と評価されている。

本日の名言

笙は「天から差し込む光」をあらわし、

篳篥は「人の声」つまり「地の音」を。

そして、龍笛は天と地の間を行き交ふ

「龍の鳴き声」を表しているとされてる。

つまり天と地、宇宙を象徴しているのです。

by雅楽

日本人の純粋で感性豊かな自然信仰があらわれています。

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